あらためて申し上げることでもありませんが、私は無知です
それなりに年齢を重ねて、今まで何度も戦争の話などを読んできて、ある程度のことを知ったつもりになっていました
そして、人生を必死に生きてきているという自負もあったかもしれません
ですが、人生を味わい尽くすとは程遠い日常を歩んできたのだと認めざるをえません
私は転職休暇の間に、関東にあるちょっとした古い施設を周っていました
その時に、ラストエンペラー、清朝宣統帝の弟である愛新覚羅溥傑とその夫人である浩が若かりし頃住んでいたという建物を発見したのです
もちろんラストエンペラーについては存じておりましたが、その弟の存在というのはあまり知りませんでした
その建物には清朝の家系図や、その末裔の写真などが飾られていて、何冊かの本が置かれていました
どの本も絶版になっていて、入手できなそうでしたが、ネットで検索してみると一冊だけ簡単に手に入るものがありました。
それがこの『流転の王妃の昭和史 (中公文庫)』です
作者は愛新覚羅浩。溥傑の奥さんで、もともとは華族の出ということです
彼女が、自分の半生を描いたのが本書です
何の不自由もなく生きていた華族出身のお嬢さんが、清朝皇帝の弟に嫁ぎます
(その時には溥儀は日本にかつがれて満州国の王となっています)
しばらくは日本に暮らしていましたが、夫と共に中国に戻ります。その時の家が現存しているのですね
そして、中国に戻ると終戦して日本人は熾烈な環境に置かれます
夫は先に日本に戻ることになりますが、なぜかロシアに送られて抑留されます
浩は日本に帰ろうとしますが、共産党などにつかまって牢獄に入れられたりして、娘を連れながら必死に行きます
ちなみにその時、彼女はずっと溥儀の夫人の面倒を診ていたようです
溥儀の夫人はアヘンに侵されていて、糞尿も垂れ流しのままでしたが、途中で息絶えます
命からがら奇跡的に中国を脱出して日本に帰ってきますが、夫の消息は不確かで、少なくとも生きていることだけは分かります
そして、16年もの間、夫とは会うことができませんでした
その間も敗戦直後の日本で何とか生きるわけですが、その間も大変な事件が長女に起きてしまいます
そして、ついに別れてから16年後、夫が中国へ戻ることが許されました
次女を連れて夫に会いに行き、そのまま中国で暮らすことにします
ただし、次女は途中で日本に帰ります
やはり長く日本に住んでいたため、日本が恋しくなってしまうようです
中国で溥傑とようやく平穏な暮らしができたと思えば、文化大革命が起きてまた命の危険性を感じることになります
本当にいつまでも物語が尽きることはありません
ですが、最後の章で浩の文章を読んでいると、ようやく穏やかになった晩年の描写には長い人生の果てへ一緒にたどり着いたような体験ができます
歴史を学ぶとなると、ついつい「清朝最後の皇帝は、宣統帝」という一問一答だけになります
ですが、それは何を知ったことにもなりません
清朝の皇帝に生まれるということが一体どういうことなのか
そして、その家系に生まれたとしたら、政権転覆した場合、どういう人生になるのか
そういうことに思いを馳せてこそ、歴史を知る、学ぶということになるのかもしれません
私の人生もいつまで続くか分かりませんが、やはりまだ辛酸が足りていないと感じます
ですが、そう思えるということはとてつもなく恵まれた状態なのですね
ありがたいことです
私はこの本を読んで、それなりにしんどいと思えていた自分の人生が少し楽になった気がしたのです
私は私に与えられた人生を全うすればよい、そう思わせてくれました
これは稀有な書です
ちなみに、『駱駝祥子』の作者である我らが老舎先生や、周恩来と一緒に写っている写真などもあります!!
みなさまもぜひお読みいただければと思います
彼らが住んでいた邸宅がどこかは、ネットなどでお調べいただければわかると思います。この本を読んでから、そこでまったり時間を過ごされてもいいですし、この施設に行ってからこの本を読むのもいいと思います。いずれにしても、私はこの本を稀有で貴重で、本当に読んでよかったと思いました。Kindleではなく、紙の本(文庫)で購入しました。紙で買ってよかったです。きっと売ることはないでしょう