職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『転がる香港に苔は生えない』星野博美

 

 

かつて香港に行ったことがあります

 


その頃すでに返還はされていて、街に何かが起こりそうな気配はありませんでした

 

 

確かに香港は賑やかで活発な、まるで生き物のような都市でしたが、私はどちらかと言えば、すこししっとりしたマカオに魅力を感じたものでした

 

 

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

 

 

二年間香港に暮らし、返還を自分の目で見ようとした人の香港体験記です

 

 

この著者の文章はもしかしたら少し癖があるように読む方もいらっしゃるかもしれません

 


一人で思索している内容もどこか他人の目を意識している風に思えますし、比喩なども万人受けするものではないでしょう

 


ですが、それは些細な問題に過ぎません

 


香港返還という歴史的な日を現地に住みながら待つという瞬間は、その場にいるものでしか体感することができません

 

 

しかもこの書では日本人の視点で教えてくれます

 

 

この本を読んで私が最も強く思ったことは、日本人がいかに土地を信じているかということでした

 


日本人は無神論者が多いとか言われるが、日本の大地を信じています

 

 

周辺を見渡せるこの地は、我々の大地だという誇りがあります

 

 

ですが、その日本人にとって当たり前の感覚が、香港人にはないのです

 

 

香港は歴史が浅く、ほとんどが移民です

 


歴史を学ぶと、中国を追われてやむをえなく来た人間も極めて多いことが分かります

 

 

彼らは、私たちのように、国家や土地を信じていません

 

 

それを象徴するエピソードがありました

 


あるお金持ちが記念切手を買い漁ったといいます

 

 

著者は不思議に思うわけです

 

 

土地も金も有り余るほどある人間がなぜ切手なんかを買ってしまうのか

 


その金持ちはこう答えたのです

 


「逃げ出す時に土地は持っていけない」

 

 

「金は重くて運べないし、有事の時は紙切れになる」

 


「だが、切手は安定した価値があり持ち運びも楽だろう」

 

 

日本の金持ちにこういう発想をする人はいないかもしれません

 

 

持っている土地が永遠であることを信じ、日本から逃げ出す想定などしてない方が大半でしょう

 

 

もちろん、お金持ちに限らず、、、ですが

 

 

私たちは少なくとも香港人に比べて、何かを信じすぎているような気がしました

 

 

緊急事態が起こった時、生き残るのがどちらかと言えば、もちろん彼らの方だと思ってしまいました

 

 

 

 

私たちはよく島国根性などと揶揄されますが、この本を読むと確かに、そういった欠点が私たちにはあるのかもしれません。ただですら、昨今は何があるか分からない世の中になっていますので・・・

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