私はあまり時代劇を読めていないのですが、思わぬところで時代劇を読むことになりました
『君の名残を』という本です
『四日間の奇蹟 (宝島社文庫)』を読んだ時から浅倉卓弥という著者は、そうとうな力技を持っていると感じていました
宝島の、このミスがすごい大賞を最初にとったということで、ミステリーですが読んでおりました
ミステリーの枠を完全に超えていて、文章にも品格がありストーリーもうまく整えられていて、新人とは思えない筆力でした
今回ご紹介する『君の名残りを』は前作よりもかなり分厚いです
現代の高校生三人が落雷によりタイムスリップし、平安末期(源平の時代)へ行ってしまうというストーリーです
え・・・、
と、もしかしたら絶句されたかもしれません
ですが、落ち着いてください
これほど要約してしまうと陳腐に聞こえてしまうかもしれませんが、そうとうな力作であることに間違いありません
素直に受け入れられない設定が多々あるかもしれませんが、壮大なスケールがあり必死に生きる人間の姿がこの本にはあります
面白いのは、彼らが自分の未来をおおよそ予想できるということです
というのも、高校生の彼らは歴史の知識として木曽義仲や武蔵坊弁慶の最期を知っているのです
そう分かっていつつも自分はそれを変えられるかもしれない
変えなくてはならないという使命を持って、その世界で生きていきます
そして奇妙なことに現代へ戻りたかった気持ちは時を経るにつれて、タイムスリップした時代で生きなくてはならない、という強い力に変わり、その気持ちに読者は共感していくことになります
最後の方で見えざる者に対して巴は問いかけます
どうして自分だけがこれだけ辛い思いをしなくてはならなかったのか、と
見えざる者は答えます
では、この時代に来たのはそれほど不幸なことだったのか、と
確かにタイムスリップしたことは不幸かもしれない
ですが、そこで多くの人々に会い、衝突し、人を殺し、愛し愛された
そのことを不幸と言ってしまえるのか
この作品を要約するならば、そういうことが主題なのかもしれません
そしてその言葉はタイムスリップしない人間にも当てはまるかもしれません
この物語には運命論と自由意志の問題が含まれていて、読了直後は運命論が勝ると著者が伝えたかったことだろうと解釈していたのですが、数日経ってから考えてみると全く逆だったことに気付かされました
たっぷり時間があるときに、ぜひご一読いただければと思います
長い物語ですし、要約すると子供じみて思われるかもしれませんが、読後は最高の読書体験をしていただけると信じています。読み終わった時に、このタイトルの重みが分かりました