職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

かつての仲間(前編)

 


私は大学生の頃、書店でアルバイトをしていました

 


そのことは、これまでも当ブログでいくつか書かせていただいております

 

 

 


その書店は3フロアで、各フロアに二人組で入ることになっていました

 


ですので、ヒマな時は二人でいろいろと喋ったりできる楽しい環境でした

 


夜の時間帯はほとんどが大学生のアルバイトで、仲良くわいわいやっていて、仕事終わりに翌朝まで飲んだりすることもありました

 


かなり昔の話になるので、私の中では少し風化しつつあります

 


今でも顔は思い出せるのに名前を思い出せなかったり、苗字は思い出せるのに下の名前が思い出せなかったりします

 


すでに過ぎ去った人たちで、うっすらとこんな人がいたなと思い出すことが時おりあるのみです

 


ですが、この前、ふとした瞬間にある人のことを思い出しました

 


その書店の勤怠はタイムカード方式でした

 


たまたまタイムカードの棚は、私と山田くん(仮名)は隣に並べられていました

 


だから彼の姓名が記憶に刻まれていたのでしょう

 


ふとその彼の名前を思い出したのです

 


何かの紙を見た時に、そのタイムカードを思い出して、そのタイムカードに書かれていた彼の名前がぼんやり浮かんできました

 


彼は私の二つ上でしたが、私は彼のことを山田さんと呼ばずに、山田くんと呼んでおりました

 


私はアルバイト経験があまりなかったこともあり、年齢がいくつであれ後から入ってきた人は後輩という理解をしてしまっていました

 


今では、そんな無礼なことはしないのですが、当時は基本的なことも分かっておらず、かつ私が息がっていた部分もあったと思います

 


ところが、山田くんはそのこともきちんと指摘してくれました

 


「俺はいいけど、年上の人はやっぱりきちんと“さん”付けをした方がいいよ」

 


そういう真っ当な指摘は勇気が必要なことで、直接言ってくれる人はあまりいません

 


今から振り返っても、これは彼の優しさだったと理解できます

 


この山田くんというのは、豪快に笑い正義を貫徹するような、惚れ惚れするような好青年でした

 


ある時、下のフロアで大騒ぎする声が聞こえたので下に行ってみると、サラリーマンと山田くんが掴み合いのケンカをしているのです

 


書店員とお客さんがつかみ合いというのは、なかなかない光景です

 


山田くんの言い分としては、いくらお客さんとはいえ、あまりに無礼な態度だったから注意したということでした

 


すると、暴力を振るってきたからやり返した、と

 


はっきりとした記憶はないのですが、そのお客さんが小銭を放り投げて暴言を吐いたとか、そんな感じだったと思います

 


当時から山田くんの態度を批判する人も一定数はいたのですが、私からすると曲げない態度は尊敬に値するものでした

 


私にはそんな勇気はありません

 


彼の資質というのは、あと数年経てば自分でも追いつけるという類のものではなく、生まれながらにして備えているもののように思えました

 


そういう方なので、アルバイト内でも一目置く人は多かったです

 


そして、彼は本のことも詳しかったです

 


私もそれなりの読書家を自負していましたが、彼はまた違うジャンルでとてつもない数の本を読んでいました

 


今でも彼が強くお勧めしてくれた本は覚えています

 


当時、私は自分が作家になることを公言していたので、彼もそのことは知っていました

 


そして、彼にも夢がありました

 


それは編集者になるということでした

 


ですので、山田くんはよく「君が書いたものを俺が編集してあげるからな」と言ってくれていました

 


私は自分が作家になっていない未来など考えもしていませんでしたし、山田くんもきっとたくさんの本を手がける編集者になるのだろうと思っていました

 


彼は大学を卒業するとき、出版社に受かることはできなかったので、もう一年留年して、大手の出版社を再度受けることに決めました

 

 

本日はここまでとなります

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