職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『天路の旅人』沢木耕太郎

 

 

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新刊の単行本は高いので、ほとんど買わないのですが、表題の作品はついつい買ってしまいました

 

 

理由は二つあります

 

 

一つは、無料お試し版という一章だけ読むことができるものを読んで、続きが気になって仕方なくなってしまったことです

 

 

もう一つは、その期間であればキンドル版でしたら半額分のポイントが付与されるということで、実質的には半額で買えたからです

 

 

沢木氏の作品を気に入っている方でしたら、問答無用で楽しめる内容になっています

 

 

戦前から戦後の七年間にかけて、スパイとして中国からチベットを辿りインドへ行った旅人、西川一三の話です

 

 

そして、同じ時期に同じようにスパイとしてチベットに潜伏した木村肥佐生人間性や旅路と比較しながら、西川一三の生涯が描かれます

 

 

現代ではありえないほど過酷な旅路で、異国で物乞いなどをしながら生きながらえるという、とてつもない物語です

 

 

かなり太い本なのですが、そのほとんどは西川の冒険のような旅の描写となります

 

 

そういう意味では、以前ご紹介した下記の本に近いものがありました

 

 

 

 

自分自身が一緒に歩いているような没入感と、読み終わった後の達成感と疲労感、そして旅が終わった後に続く退屈な日本での日常

 

 

ただ、この『天路の旅人』が感じさせてくれるのは、単なる長旅の感覚だけではありません

 

 

この西村一三という人物が、なかなか見たことのないような実直な人で、とてつもなく強い意志を持っているのです

 

 

おそらく、現実で会っていれば、あまり魅力的に映らなかったような気がします

 

 

沢木耕太郎がインタビューで会った時は、岩手県盛岡市で地味に暮らしている地味なおじいさんとして過ごしているのですが、実はとんでもない大冒険をした帰還者である、というところに、何かロマンを感じてしまいます

 

 

私たちが何事もなく通り過ぎたり、少し喋ったりしているご老人も、もしかしたら若かりし頃は、私では想像もつかないような人生を歩んできて、今ここに至っているのかもしれません

 

 

そういった人間の深さと言いますか、想像を超える果てしなさが、現実にはひっそりと紛れ込んでいるのかもしれない、と思わせてくれました

 

 

考えてみれば、社会に出てから知り合った人の大半の生涯を全く知らずに、上澄みである「今」しか見ずに接しています

 

 

相手の背景を推測するとき、高校とか大学を卒業して、この会社で何年くらい働いて結婚とかもしてそうだな、というような勝手な推測を正として、接しているような気がします

 

 

ですが、人間が何を考えていて夢想しているかというのは分からないものです

 

 

残念ながら、西川一三さんもその奥様もすでに亡くなっているので、この本が大ベストセラーとなって、おそらく半永久的に彼の大冒険が語り継がれることになったことを、西川ご夫婦本人が知ることはありません

 

 

ですが、西川一三さんがまだご存命だったとしても、何の興味も湧かず何も語らずに、静かに日本酒をお飲みになっているのかもしれません

 

 

 

 

それにしても、沢木耕太郎のノンフィクションは本当に面白いですね。新しい作品を読むたびに、いろいろ感じさせてくれます。そして、毎回沢木耕太郎という人物の後ろ姿が見えて、たまらなくかっこいいのです。はぁ、彼みたいに生きたかったな、、、そんな風に思ってしまいます

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