前回からの続きになります
だが、車内を見ると、これは明らかに普通の電車ではなさそうだった
なぜなら新郎新婦並びにその親族と知人たちと思われる人たちがぎっしりその電車に乗っているからだった
そこの警備員さんに聞いてみると、やはりそれは特別車両だから一般の客は乗っていけないということだった
だから僕は隣のホームの電車をぼんやりと待っていた
電車に乗って待っていると岩瀬浜行きの路面電車はゆっくりと走り始めた
少し背の高いマンションは富山駅周辺にあるものの、それ以外は低い建物が並んでいる
平屋も散見される
今回の旅(出張)は、今までとは少し違って僕には見えていた
旅といえばこれまでは純粋に楽しいものでしかなかった
旅とはわくわくするものだったと言っていい。だが、少し期間をおいて僕は少し人間として変わってしまっていた
老化と言ってもいいのかもしれない
純粋に出張旅を楽しめるのか、というか、楽しめなくなっていることに自分でも何となく気付いていた
僕の旅と小説というのはは表裏一体で、小説がなければ旅などあまり意味はない
いや、何も意味がないとまでは言わないが、僕にとって旅というのは小説を書くという意識が根底にあることで、楽しむことができる
だが、この一年で小説に対する強い気持ちを失いつつあった
今までもそういうことは何度かあったが、今回はたぶん最も大きい喪失感だ
群像新人文学賞の最終選考に落ちたこともあるが、なんだか自分のキャパシティが分かってしまったのかもしれない
なぜならば、ずっとやる気がなかったサラリーマンで評価されてしまって、とうとう管理職にまでなってしまった
そして、管理職になるということはすなわち執筆時間が大幅に削られることも意味していた
小説はずっとがんばっているのに、誰からも評価されてないにもかかわらず、サラリーマンとしての道はいつまでも開かれ続けている
もちろん作家になるよりもサラリーマンを続ける方が難易度は低いだろうから、この状況は当たり前なのかもしれない
誰でもサラリーマンにはなれるが、誰もが作家になることはできない
ただ、僕の周りにはサラリーマンとして他にもっと優秀な人はいたし、成り上がりたい人も山ほどいた
にもかかわらず、僕は作家としての目は全く出ず、会社で評価されてしまった
ということは、もうメッセージは歴然なのだ
サラリーマンの方が向いているから生涯をまっとうせよ、という暗示に思えてならなかった
うん。いいよ。そっちのほうが世の中のためになるっていうことであれば、僕はそっちにいくしかないってことだ。分かったよ。
僕はそんないじけたような問答をしながら岩瀬浜に向かっていた