職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

北陸への出張旅④

 

 

飽きずに第四回となります。。。前回は下記です。

 

 

towriter.hatenablog.com

 

 

森邸に入ると、受付に向かって、おばさんが何かを言っている

 

 

そして受付には老齢の女性がいた

 

 

その話しかけている女性と、受付のおばあさんはどうも旧知の中のようで、仕事で何かトラブルが起きているからその相談をしているようだった

 

 

つまり接客ではなく、世間話をしていたというわけだ

 

 

僕は早く中に入りたかったが、何となくその二人の会話を急かさずにじっと待っていた

 

 

看板を見ると、森邸は入場料百円のようだった

 

 

ようやく僕に気付いたおばさんは謝っていたが、そんなこと気にすることはありません

 

 

僕も現地の方言に聞き耳を立てていたわけだから

 

 

旅はこういう瞬間が面白い

 

 

中に入るとすでに30人くらいの人がいて、とあるおじさんの説明に耳を傾けていた

 

 

最初は何かのイベントがちょうど行われている最中かと思っていたら、どうも観光バスでやってきた団体様のようだった

 

 

少し気になったから、少し遠くからガイドの人の説明を聞いていた

 

 

「一緒になって聞いたらいいよ」

 

 

受付のおばあさんにそう言われたから、はいと返事をしたものの盗み聞きみたいで申し訳ないから、一人で先にまわることにした

 

 

建築物としての特徴はいろいろあるようだったが、一階は退屈だった

 

 

はしごと言ってもいいような、ものすごく急な階段を登った

 

 

昔の住宅の階段はだいたい急だ

 

 

そして、二階はすごくよかった

 

 

森家の肖像画と写真が飾られている

 

 

二代目の娘の森なんとかさんは、明治20年に生まれて昭和60年まで生きたそうだ

 

 

享年98歳とのことでかなりの長生きをされた

 

 

37歳の時に初孫を抱っこしている写真もある

 

 

亡くなられた昭和60年はインターネットはまだ登場していないが、彼女はこの時代の流れをどう見ていたのだろうか

 

 

明治20年の感覚だったら、昭和60年も超現代に感じたに違いない

 

 

そして彼女がなくなってから、またさらに月日が経っている

 

 

もう何がなんだか分からないくらい時代は変わってしまった

 

 

僕は団体様よりも先に森家を後にした

 

 

しばらく歩くと古い町並みは終わり、今の人々が暮らす街になった

 

 

これはこれで、見知らぬ街はリアリティがあって興味深い

 

 

完全に空き家になっているところも散見される

 

 

ある家などは玄関には草木が生い茂っていて、横から見ると窓が割れていて中の様子が丸見えである

 

 

昔の雑誌やごみが巻き散らかされていて、棚の上にはなぜかトイレットペーパーが何十個も積み上げられていた

 

 

相当用心深い人物だったのだろうか

 

 

せっかくたくさん買い込んだのに、そうとう残してしまっている

 

 

もったいないのもそうだが、何かシュールなものを感じる

 

 

引っ越すにしても消耗品だから持っていけばよさそうなものだが、そうではないのかもしれない

 

 

この家で最後の一人となった方が亡くなってしまったのか

 

 

空き家は死を意味していて、トイレットペーパは生きる象徴だとしたら、まさしく対称的な情景だった

 

 

知らない街を歩いていると、いろんな空想が浮かぶ

 

 

知ってる街でも、そうやって空想しながら歩けばいいのかもしれないが、なかなかそれも難しい

 

 

もう少し歩きたくなって最寄りの駅を通り過ぎて、もう一つ先の駅まで歩いてみることにした

 

 

ちなみに、途中で二件の本屋があった

 

 

一軒をのぞいてみると手前がレジで、向こうを向いたレジのおばあさんがこっくりこっくりと居眠りをしながら店番をしていた

 

 

棚を見るとちょとした漫画と学校の教科書しか並べられていない

 

 

あとは文房具である

 

 

近くに小学校がなければなりたたない商売かもしれない

 

 

昔は書店といえばこれくらいの規模で間取りだった

 

 

現在ではどの街でも大型書店以外はほぼ壊滅状態になっている

 

 

僕の地元にあった書店もほぼ全てがつぶれてしまった

 

 

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