職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『質屋の女房』安岡章太郎

 

 

突然ですが、さて問題です。これは一体なんでしょう

 

○夜十二時をすぎると、日本橋もしずかになる。

 

○月に一度私は、私の居住している神奈川県の県庁所在地である横浜の役所に、金をもらいに行くことになっている。


○いったい何がおもしろくて、あの人はあんなに嘘ばかりつくのだろうか。

 

○そのころ僕は肥った女をみると、何ともいえない親しさを感じた。

 

○ことし、また落第ときまった。何とも奇妙な心持だった。

 

○はじめて質屋へ行ったときのことを憶えている。

 

答えは、一冊の短編集に収録されているそれぞれの小説の書き出し部分です

 

どれも同じ作家のものです

 

非常に興味をそそられる書き出しだと思いませんか。どれも読みたくなってしまいます

 

そして、職業作家を志す者として、非常に勉強になります

 

第三の新人と言われる安岡章太郎の『質屋の女房』です

 

どれだけ優れた作家であっても、やはり作品はどこかしら似通ってしまうものでしょう

 

それがいわゆる個性とわれるものだと思いますし、その作風に惹かれて読者はリピーターになっていくに違いありません

 

この冒頭だけでも、この作家の特質がどことなく現れています


安岡章太郎に登場する主人公はどれも冴えません


どことなくぼんやりしていてしゃきっとせず、弱々しいところがあります


はっきりいってしまえば駄目男といいましょうか

 

ところで、察しのいい人でしたら、上記の冒頭を見るだけであることに感付くかもしれない


そうです。漢字が使える箇所もあえて平仮名で書いているようなのです


その効果が主人公の冴えなさを助長させているのかもしれません

 

最も印象的なのは『陰気な愉しみ』でした


読後ももどかしい気持ちがぺっとりと体内に残っています


村上春樹の『若い読者のための短編小説案内』にも取り上げられていますが、この人は本当に天才なのかただぼんやり書いているだけなのか分かりません

 

ですが、ぼんやりした作品は、ぼんやりしたまま書けないでしょう

 

著名な作家というのは調べれば調べるほど、意識的な人だということが分かってきます

 

ただ何となくマスを埋めるという書き方では、生涯職業作家にはなれません

 

また身をひきしめてやっていきたいと思います

 

 

質屋の女房 (新潮文庫)

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