普段は社会人として働いているので、二週間くらいかけて読もうと思っていたのですが、後半の半分以上を一日で一気に読んでしまいました
私が最初にジュンパ・ラヒリに衝撃を受けたのは、美容室の待ち時間に読んでいた時です
『停電の夜に』という短編集で、インド人の著者というところにもの珍しさを感じました
文章だとか情景描写のうまい作家だなと思いながら読んでいたのですが、この本の最後の短編を読んでいる時にとてつもない衝撃を受けました
『低地』は、そのあとがきで書かれているような作家の成長はあまり感じませんでした
ラヒリはずっと同じ感情を違う角度から書き続けている作家のように思えます
どれもものすごく似通った登場人物であり、舞台であり、物語なのです
今回もアメリカとインドが舞台として登場して、勤勉に生きるやや生真面目な男を中心に寡黙な妻、旧型の両親、そして次世代へという構造は変わっていません
少しストーリーに奇抜さがあったかもしれませんが、それが進化した感じはしません
私はこの『低地』がラヒリの最高傑作だとは思いませんが、今までと同じくらいの品質と、読書としての最高体験を提供してくれることは間違いありません
つまり、私はラヒリの成長を期待というよりは、また同じようなものを読みたいという完全な1ファンなのであります
ものすごく手短に物語りをまとめると、下記の流れになりますが、まだ読んでいない人は読まない方がいいかもしれません
二人の兄弟がアメリカとインドでそれぞれ人生を始めます
兄はアメリカ、弟はインド
兄はバツイチ子持ちと真剣に付き合い、弟はすぐに結婚してしまいます
その後、弟はある出来事で亡くなり、残された妻は妊娠していたこともあり、兄はアメリカに連れてきて一緒に暮らすことになります
生まれてくる娘を本当の我が子のように育てるのですが、夫婦の間には埋まらない溝があり、実の母である妻が出て行ってしまいます
男一人で娘を育てるのですが、その娘は実は父に恨みを持っていて実家にはあまり帰らない生き方を選びます
ですが、そんな一人娘も父親不在で妊娠したまま帰ってくることになりました
そして新しい生活を三人で暮らしていると、そこへ何十年ぶりに居なくなった妻が戻ってきます
このように書くと、物語の起伏がありそうですが、人生が流れていくように静かに進んでいきます
視点も変わっていて、実は最後の章を締めくくるのは、亡くなった弟だったりするのですが、そのあたりが実は作者のメッセージなのだろうかと考えたりしました
ポイントは、この居なくなってしまった妻をどのように見るか、かもしれません
直接的にはあまり描かれませんが、女性の一生とは何なのかということを示唆しているように思えます
倫理的に見るならば、「インドにそのまま残っていても寡婦としてつらい人生を送るだろうからと、助けてくれた義理の兄を裏切り、実の娘を置き去りにして自分のための人生を歩むなんて、ひどい身勝手な女だ」という解釈になるのかもしれません
ですが、一面的なその見方だけでこの物語を解釈すると、大切なものを見落とすことになりそうです
では、大切なものって一体なんなんだって聞かれるといつも困ってしまうのですが
良いか悪いかという二元論を、うまいことどちらの解釈も許さないというのが、ラヒリの筆力なのだと思います
いずれにしても、本当に充実した読書となりました
彼女にはもっともっとたくさん書いてほしいです