職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

書店アルバイトのすすめ(中編)

 

 

私がアルバイトをしていた本屋の店長は、少し変わった人でした

 

(というよりも、書店には個性的で楽しい人が多かったです。何よりも、本のことにめちゃくちゃ詳しい人がたくさんいました)

 

店長は、50くらいでしたが、白髪交じりの髭を生やしていて、見た目にも渋い人でした

 

彼の不思議なところはいくつかあるのですが、人当たりもよく、頭もよく、書店員としての実力もありますが、独身でした

 

ある時、お寿司屋さんに連れて行っていただいた時に聞きました

 

店長はかつて結婚をすると決めていた人がいたのですが、結婚式の前日に他人と人生を共に生きると考えたら怖くなって、逃げ出しちゃった、と

 

いやいや、花嫁さんがかわいそうすぎる・・・、という感想は今でも変わりませんが、私が考えていた以上に繊細な人だったようです

 

その店長は、毎年夏になると1ー2か月くらい完全に仕事をお休みされるのです。なかなかそんな社会人はいません

 

不思議な人だなと思っていましたが、ある時、店長が毎年なぜそんなに休むか知ることになりました

 

私のシフトは17時からですが、店長や社員の方は朝から働き17時くらいで勤務終了です

 

アルバイトが足りない時はたまに店長が23時まで残っていることもありましたが、普段は18時とか19時には帰られていました

 

その本屋は三階建てで、一階が雑誌や新刊のハードカバー、二回は文庫・新書・実用書など。三階は漫画でした

 

私が一番好きなのは二階で、次が一階で、あまり好きではないのが三階でした

 

漫画は私があまり詳しくないということと、お客さんが多いということと、万引きが多くて油断ならないということと、40冊とか大人買いする人がカバーを要求することがあり大変だとか、そんな些細なことです

 

その三階のレジに入っている時に、店長が突然やってきました

 

「ねえねえ、昨日でキャンペーン終わった小学館のおまけ残ってる?」

 

「ああ、あのドラえもんのやつですか?」

 

小学館の本を買ったらプレゼントするというおもちゃがありました

 

「そうそう」

 

「ここに置いてあります」

 

「じゃあ、全部もらっちゃおうかな」

 

「もう期限過ぎたからお客さんにも渡しませんし、欲しがる人もいないと思うので、いいと思います」

 

「ありがとう」

 

「でも、結構たくさんありますよ」

 

私はレジの下から、ドラえもんがたくさん詰まった大きなビニールを取り上げて、机の上に置きました

 

「おお、いいね」

 

「でも、これ何に使うんですか」

 

「いや、使うっていうよりは、あげるんだよ。喜ぶだろうなぁ」

 

「え、誰にですか?」

 

そして、私は店長が毎年夏に長期休暇を取っている理由を知るのです

 

テロリストのパラソル (角川文庫)

テロリストのパラソル (角川文庫)

 

 

店長は多読でたくさんの古典も読んでいました。なので、私は「生きている作家の中で最も感心する作家は誰ですか?」と試しに聞いてみました。すると、「感心ではないかもしれないけど、好きなのは藤原伊織ちゃんかなぁ」と言っておられました。すでに藤原伊織さんは他界されております

 

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