私は紀行文が好きなのですが、この本はなかなかとてつもないです
西安からローマまではの距離は1万2千キロとのことです
それだけ聞いても、普通の人はふうんとしか思わないかもしれません
ですが、この道を徒歩のみで踏破した日本人がいると聞いたらいかがでしょうか
急にこの1万2千キロというとてつもない長さが、親近感とともに、ずっしりと重みを増してきます
ちなみに、私は学生時代に四万十川を上流から下流まで歩いたことがありますが、最高でも一日50キロです
その程度でも、翌日は動けないほど体が疲れていました
それを考えても、この著者が踏破した距離が並大抵ではないことが分かります
この本の著者は大学を卒業してまもなく西安へ降り立ち、歩き始めました
動機についてはわずかながら冒頭に書いてあります
今までの人生で何一つやり遂げたことがない、というのが動機だということが分かります
私とて今までの人生で何も成し遂げてないですが、だからといってそんな激しい旅にはちょっと出る気にはなれません
とはいえ、この本を読み進めるうちにそんなことはすぐに忘れてしまいます
かなり分厚い作品ですが、ページをめくるごとにシルクロードという未知なる大地を著者の隣で歩いている気分になってきます
旅の途中でさまざまな出来事がおこります
中国人の徒歩旅行者と一緒に歩くのですが、彼を理解できずに苦しんだりします
中央アジアは寒暖の差が激しく、マイナス20度にも関わらずテントで眠らなければなりません
途中でロバを購入して旅を続けるのですが、ほとんど言うことを聞いてくれません
そして風景は東洋から西洋に移り変わっていき、風景が変わると周りの人も変わってきます
こういう旅行をする人たちはみんなそうですが、この著者も旅行が終わった後の展望を持っていません
ですが、どれだけ長い旅も少しずつ終わりは近づいて来ます
私が本を持つ左手のページも次第に薄くなっていきます
そして、900日を費やし著者はローマへ到達するのです
これまでの旅ではたくさんの恐ろしい出来事もありました
あれだけしんどかった旅行も、最後は到着するのが惜しくてたまらなくなります
歩くことで日常をやり過ごしていたが、もう歩く必要はなくなってしまったわけです
非日常であるはずの旅が、あまりに長すぎて日常になっていたという言い方ができるかもしれません
その後の著者について、必然的に興味を覚えますが本書にその記載はありません
ですが、下記のURLを見つけました。この旅で最も共感を覚えた国イランで留学したようです
何はともあれ、彼は路上の旅を終えてもやることを見つけたようです
が、この記事もすでに十年以上前のもののようです
彼は今どんな生活をしているのか。そんなことを想像するのも紀行文の面白さです