職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

たまに思い出す人(中編)

 

 

前回は、会田くんの家に行き、アダルトなビデオを見るというところまでお話ししました

 

 

会田くんの家の扉を空けると、すぐ目の前に居間があり、右にはキッチンの流しがあり、全てを合わせても6畳くらいの家でした

 

 

左奥にはトイレがありましたが、お風呂はありませんでした

 

 

ですので、お風呂は近くの銭湯に行くと言っていました

 

 

実は、会田くんは部活の中で体臭が強いと言われていたのですが、自宅にお風呂がないことも一因なのかもしれないと思いました

 

 

いずれにしても、私たちは会田家の居間でこたつに入りながら(その時は冬でした)会田くんがいそいそとVHSのビデオをセットするのを今か今かと待っていました

 

 

そして、私たちはその映像を談笑しながら冷静に鑑賞していました(ウソ)

 

 

その時の強烈なインパクトは今でも残っていますが、本筋ではないので今回は省きます

 

 

それからしばらくして、何事もなく日々は過ぎていき、部活も総体を終えると、会田くんとの接点はほとんどなくなりました

 

 

お兄さんが社会人となり、家を出て行ったような話を聞きました

 

 

あとは本人から聞いたのか、誰か他の人を通じて聞いたのかは覚えていませんが、彼は進学先を普通の公立高校ではなく高専高校を目指すということも私は知っていました

 

 

ご存じの方も多いとは思いますが、高専高校というのはかなり難易度は高く、大学進学を想定せず、技術の習得を目的として卒業に5年を要するという学校です

 

 

それを聞いた時、私はあのプレハブの家を思い出しました

 

 

会田くんは頭は良かったのですが、大学に行くよりもきちんとした技術を身に付けて、早くお金を稼いで親孝行をするつもりなのだろうと私は想像していました

 

 

そして、私たちが中学三年生も後半に差し掛かったあたりで、急な知らせが入りました

 

 

会田くんのお母さんが亡くなったというのです

 

 

会田くんのお母さんは仕事の都合で車を運転していたようなのですが、どうも連日の過労がたたり、ハンドル操作を誤ってしまい、高速道路で事故死をしてしまったというニュースでした

 

 

彼は父親との接点はもうないと言っていましたし、お兄さんは社会人として出て行っています

 

 

中学生にも関わらず、あの家に間借りをさせてもらっている彼は独りぼっちになってしまいます

 

 

きっと底知れぬ孤独だったに違いありません

 

 

私は彼がこの後どうなるのか、気になって仕方ありませんでした

 

 

そういう境遇になってしまった中学生の未来がどうなるのか、想像もできませんでした

 

 

そして彼は喪に服した後、また学校にやってきました

 

 

クラスが違うのでほとんど顔を合わせませんでしたが、すれ違った時にお互いに少し話をしました

 

 

彼はいつもと全く変わらぬ陽気さで話してくれるのです

 

 

もし私が彼と同じ環境にいたら、間違いなくそんな態度をとることはできなかったに違いありません

 

 

この世が本当は理不尽なのだということにようやく気付き始めたのが、私にとってこの出来事だったかもしれません

 

 

本日はここまでとします

 

 

次回が最後です

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