職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『猫を棄てる』村上春樹

 


最初に村上春樹を読んだのは高校生の時でした

 


それまでは、赤川次郎のような推理小説か、国語の本に載っているような文学しか読んだことがなかったので、彼の作品は衝撃的でした

 


記憶はおぼろげですが、最初に読んだのは『羊をめぐる冒険』だったように思います

 


図書館で借りてきて面白かったから、読んでみたら?と母に言われて読み始めました

 


それから私は彼の本を図書館で借りてきて、何冊も読むようになりました

 


もちろん異論はたくさんあるとは思いますが、『アフターダーク』以前と以降で彼の作風は大きく変わったように感じています

 


その辺りからは、彼はおそらく総合小説のような方向へ舵を切ったのではないでしょうか

 


それまで一直線だった物語が、複数の線が交錯するような、大きな物語を目指すようになっているように感じたのです

 


彼の作品のほぼ全てをこれまで読んできていますが、私はなんというか、読者としては底が浅いので、自分探し的側面の強い前期の作品をこよなく愛しております

 


ねじまき鳥クロニクル』が私にとっての最高到達点でした

 


賛否両論あるのでしょうが、とりわけ中国の描写は今なお強烈に場面を記憶しています

 


そして、それまでそんな戦争のような雰囲気を出していなかった村上春樹が、どうしてこんなに生々しく書くことができるのだろうと感服していました

 


さて、長くなりましたが、本日は『猫を棄てる』の感想になります

 


もちろんもっと前に出版されているのは知っていたのですが、手に取らずにいました

 


人気の本にしては珍しく図書館に置いてあったので、何気なく読んでみると借りる間もなく、あっという間にその場で読み終わってしまいました

 


そして、かつて『ねじまき鳥クロニクル』で覚えた疑問が解けたような気がしました

 


たぶんに父親の記憶があり、そこが引き金となって想像力にドライブがかかったのだと思われます

 


そうでなくては、実際に体験していない人があれだけの熱を持った描写は難しいはずです

 


まあ、もちろん私の勝手な解釈に過ぎないのですが・・・

 


ただ、そんなことはどうでもいいとして、一冊の本として、この『猫を棄てる』は印象に残り、歴史というものが体に深く浸透していきます

 


村上春樹が、いつもの小説のような比喩をとりはらって、作家ではない一人の人間として文章を書いたらこうなるというのも興味深かったです

 


そして、より一層、彼のことが分かったような気になることができました

 


彼の世代にしては、文学も音楽も欧米志向があると思っていましたが、京都のお寺にルーツがあるのも、何かのアンチテーゼだったのかもしれません

 


がんこな父と息子の確執も、彼の作品を振り返ってみると合点がいくような気がします

 


もしかしたら村上春樹という、ちょっと不思議な人を、少しは理解できる本なのかもしれません

 


そして、読後はなんだか温かい気持ちになることができます

 


やっぱり私はこの作家が好きだし、いつまでも敬愛の対象であり続けるのだと思います

 


ここまできたら、一日でも長生きしていただいて、一作でも多くこの世に残してくださいと懇願したい気分です

 

 

 

「降りることは、上がることよりずっとむずかしい」。まさしく至言でした。今、私がこうして紹介しても「ふうん」としか思っていただけませんが、最後までお読みいただくと、きっと何かが心に残るはずです。こういうスタイルの著作ももっと出してくれたらと思います

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