私が大崎善生を読むきっかけになったのは、彼が将棋の奨励会にまつわるノンフィクションを書いていたからでした
私は将棋が好きですが、ひどく弱いです
ですから、棋士たちの頭脳のとてつもなさに、尊敬の念をいだいています
ですから、棋士のノンフィクションと聞けば、それだけで読んでみたくなるのです
皆さまは奨励会というものをご存じでしょうか
棋士になる方は、それこそ小学生とか中学生の頃から入会してプロになります
とてつもなく厳しい世界で、年齢制限もあります
大崎善生は、奨励会では若くして才能を試され、実力のないものは退会を余儀なくされる、この厳しい世界の挫折者たちを丁寧に書いていました
『将棋の子 (講談社文庫)』という著作なので、興味があればお読みください
その後彼は小説も書いていたのですが、大崎善生は将棋雑誌の編集者出身ということもあって、将棋のノンフィクションの方に私は興味を注いでいました
その大崎善生が将棋以外のノンフィクションを書いたのが、『ドナウよ、静かに流れよ (角川文庫)』です
将棋とは全く関係なく、ドナウ川で邦人男女が心中した事件を追うというものでした
33才の指揮者と19才の女子大生がドナウ川で自殺をします
異国の地でなぜ二人は自殺を選んだのか
その女子大生の母親と著者が偶然にも知り合いだったこともあり、吸い寄せられるように著者はその事件を調査していきます
この事件のあらすじを聞いた時、人は何か美しい物語を想起してしまうかもしれません
事実、私は読む前から紋切り型のイメージが浮かんできていたらしく、読後は自分の想像力と偏見に恐ろしさを感じました
事件が核心へ向かう最中、人が死ぬというとてつもなく恐れ多いことに美しさなどないことに気付いていきます
残された家族や友人。本人が住んでいた部屋。関わった人々・・・
大崎善生はある段階から、この本の結論とも言うべき着地点を決めていたのかもしれません
二人の死が必然的であり、二人の愛が真摯であったということを
ですが、私には一つ疑問が残りました
これは彼が自然に辿り着いた結論なのか
それとも、この結論以外では二人の死があまりにいたたまれなかったからなのか
私は後者のような気がしました
実は、この本を読んだのは結構前なのですが、いつまでも記憶のどこかに残っているような気がします。みなさまにもお勧めしたい一冊です