職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

スターバックス リザーブにて(後編)

 

 

「お飲みいただく場所は、どちらでも構いませんが、どうされますか?」
 
 
「そうですね・・・」と言いながらも、私はこの場所から離れて一人になりたい気持ちを抑えることはできません
 
 
「では、あっちの席で飲ませていただきます」
 
 
「それでは、お持ちいたします」
 
 
至れり尽くせりのサービス。。。
 
 
でも、私はこういった高級サービスを受けるのが苦手であります
 
 
自分でできることを人にしていただくことの罪悪感が拭えません
 
 
私は高級旅館もあまり行ったことはないですが、行ったらきっとギクシャクしてしまうでしょう
 
 
他の席にしたかったのですが、比較的混んでいて、良い席はあまりありません、一番座りたくなかった、テーブルの低い席しか残っていませんでしたが、そこにしました
 
 
「こちら、エデュケーションカードになります」
 
 
そう言って手渡されたのは、私が頼んだコーヒーの歴史なり背景なりが書かれたカードでした
 
 
お客さんを教育してあげようということで、志の高いカードに違いありませんが、ややスターバックスの慢心が見え隠れします
 
 
席に座り、荷物を下ろし、この高級コーヒーと対峙します
 
 
そして、コップに手をかけました(頼んだのはアイスコーヒーです)
 
 
もしかしたら、あの朗らかな女性店員さんが遠くから、こっちをうかがっているかもしれない
 
 
もちろん、そういった想定をした上で、一口目をいただきました
 
 
最初の味覚としては、「あ、いつもと違う」という感覚でした
 
 
それは複雑なもので、いつも飲んでいる安っぽいコーヒーの方が安心するという感情と、これはもしかしたらすごく美味しいのかもしれない、という二つの気持ちが混ざり合っているのです
 
 
二口目も飲んでみました
 
 
やはり美味しいことに間違いはない
 
 
飲んでいくうちにその確信を高めています
 
 
ようやく心からコーヒーを楽しむことができたので、少し気持ちにも余裕が出てきました
 
 
あの店員さんが朗らかに様子を伺っていたら、笑って返してあげたい、、、そう思って店員さんの姿を探してみると、すでに別の接客でレジ業務に必死でした
 
 
なんだったんだ、私の一人芝居は・・・などと頭の中が雑念だらけになっていると、先ほど私が座っていた予約席に別の男が座っているではないですか
 
 
その男の風体を軽く紹介しますと、こんな感じになります
 
 
オレンジのセーターに、すそを少し高く折り曲げたジーンズ、その下からは赤い靴下が見えます
 
 
靴は真っ黒で固そうなブーツで、トラックに踏まれても痛くなさそうです
 
 
髪の毛は少し明るくしており、ワックスをつけてさっと後ろに流していました
 
 
時計はよくわかりませんが、銀色でごたごたしている感じはしました
 
 
お金は持っているのだろうと一眼で見ただけでわかる類いの青年でした
 
 
そして、私とは違って、女性店員とものすごく楽しそうに談笑しているのです(先ほど私を接客してくれた方とは違う女性でした)
 
 
さらに言えば、相手の店員をものすごく笑わせているのです
 
 
しかも、店員の何人かの写真を撮っているではないですか
 
 
思わず、えーーー、と叫んでしまいそうになります
 
 
その上、お客さん席から現れた女性が彼の元へやってきて、何度も頭を下げて恭しく挨拶をしているのです
 
 
この店のオーナーか、、、などと勘繰ってしまいますが、彼の正体が私にわかるはずもありません
 
 
そして、その男はコーヒーを飲みながら、スマートフォンをいじり始めました
 
 
全て大敗している私ですが、ここで勝機を見たような気がしました
 
 
私はあえてスマートフォンなど一瞥もしない、という作戦です
 
 
やはりスマートフォンをいじっている姿というのは、周りから見てあまり感心できたものではありません
 
 
そして、あの小さなものをのぞき込むというのは、極めて世俗的な行為です(スターバックスで恐々としている私が言うべきことではないのですが・・・)
 
 
なので、私はあえてスマートフォンなど持っていない素振りで、何もせずにただただ泰然とコーヒーを飲むことで、彼に対抗しようと思ったのです
 
 
もちろん、途中から私はここで何をしてるんだ、という気分になって、スマートフォンを見てしまったりしたのですが・・・
 
 
そうやって、何をするでもなく呆然と過ごしているといつの間にか時間は過ぎていました
 
 
次の予定の時間が迫っていたのです
 
 
コーヒーの最後の一口を飲み干して、エデュケーションカードを鞄に入れました
 
 
最初は反発を覚えたカードですが、何かの記念の品をいただいたような気がしてしまったのは、やはり私が貧乏性だからでしょう
 
 
オレンジ色のセーター男はスマートフォンから顔を上げて、暇そうに店員の姿を目で追っていました
 
 
なんとなく、特別席に座っている彼は実のところ寂しいのではないか、急にそんな気がしました
 
 
ただ、ちょっと前まで私もあそこに座っていて、内心ではビクビクしていたとはいえ、私がコーヒーを嗅いで偉そうな感想を言っているところを、同じように誰かが見ていたかもしれない・・・
 
 
そんなことを考えながらスターバックスをそそくさと後にしました
 
 
外は晴れていて、僕にはやはり自動販売機のコーヒーくらいが身分相応のように思いました
 
 
でも、コーヒーは美味しいので、何かお祝い事があればまた行ってみたいと思います
 
 

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なんだかんだ言っても、雰囲気と家具とコーヒーのクオリティは最高峰と言っていいでしょう。ホテルのラウンジなどに比べたら値段も安いのかもしれません
 
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