職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『戦争の悲しみ』バオ・ニン

 

 

私は比較的、東南アジア文学を紹介させていただいていますが、その中でもまさしく最高峰と言っていいのはこの本だと思います

 

確かインドの大学教授だったと思うのですが、日本に反戦文学が生まれないことを嘆いていた記事を読んだことがあります

 

ちょっとその記事が何だったかは忘れてしまったのですが、彼は太宰や三島や川端などの日本文学を読んでみたものの、ひどく遅れていると感じたとのことです

 

どうやら、僕とか私という、自分にばかり固執している主人公が気に食わなかったようです

 

いわゆる広がりのある世界像のようなものが提示されていないということだったかもしれません

 

もちろん、私は私なりに日本の文豪たちの素晴らしさを理解しているつもりなので、このインド人の大学教授の意見に全面的な賛同はできないわけですが、言わんとすることは分かるような気もします

 

そして彼は日本の文学と比べて、ベトナムの文学を高く評価する、と言っていました

 

なぜならば、経済や社会がよく書けているから、ということのようです

 

この学者に対して、多くの日本文学ファンは猛り狂うかもしれません

 

(大陸の人には大陸の文学がしっくりくるのでしょうか、、、などと言ったら偏見ですよね・・・)

 

日本文学の批判の前に、日本人にはベトナム文学を書けないですが、ベトナム人にも日本文学を書けないと思われます

 

文学に優劣をつけるというのは、それだけ文学の可能性やキャパシティをせばめる行為に他ならないでしょうから。何かを誉めるために、何かをけなすという論法は、あまり発展性を生まない気がします

 

どっちが上などではなく、それぞれの特質を理解するのが文学研究ということになると思います

 

ところで、みなさまはベトナム文学をお読みになったことはありますでしょうか

 

あるとしても、あまり多くはないかもしれません。私も数冊しか読んだことがありません

 

おそらくベトナム文学の中でも最高峰と言われているのが、タイトルの『戦争の悲しみ』です

 

これは驚くべき大作です。ベトナム文学とかそういう括りは明らかに超越しています

 

お叱りを覚悟でお伝えすると、本当にあまりの迫力に圧倒され、あの日本の文豪たちですら霞んで見えるかもしれません

 

(さっきと真逆のことを私は言い始めております)

 

戦争体験とはどんなものだろうと興味を持っている方にはお勧めしたいです

 

特に後半のある描写は読者を絶望に陥れます

 

こんなことになっても人は生きねばならないのか・・・

 

気分のよい時は読まない方がいいです

 

自分は世の不幸を背負いこんでいると感じてしまった時はいいかもしれません。そんなことはない、やはり自分の環境は恵まれているのだ、ということが腹落ちするでしょう

 

それがこの本の正しい効用ではないかもしれませんが

 

この本を読了してから数年は、この本を思い出すたびに、まだ耳に戦争の轟音が残っているような気がしました

 

戦争の悲しみ

戦争の悲しみ

 

 

なぜこの本が絶版になっているんですか!!!この本が絶版になっていることが自体が不可思議で仕方ありません。奇抜なタイトルの新刊ばかりが一時的に売れて、名作が消え去る世の中ではいけません。

 

ですが、安心してください。下記の世界全集は絶版でないので読むことができます。それにしてもこのシリーズは良書ばかりで、河出書房のこの企画は、本当に偉業だと思います

 

 

 

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