実験小説や前衛小説という言葉はよく聞きます
では実験的な小説を一つでも挙げろと言われたら、皆さんはどのようにお答えされますでしょうか
なかなか、難儀ではありませんか
例えば帯にそう書いてあったとしても何を実験したのやらとよく分からないことがあるかもしれません
もしくはそんな実験などしないで、ちゃんとしたものを読みたかったと思わされたりします
ちなみに、私がこれまで読んだ作家の中で最も実験的な小説だと思ったのは日本の作家ではありません。欧米の作家でもありません
タイの作家です
ちなみに『東南アジア文学への招待』という本があるのですが、これの中で紹介されていたのが、タイの代表的な作家、ウィン・リョウワーリンです
この本を読んでから、すぐに『インモラル・アンリアル―現代タイ文学 ウィン・リョウワーリン短編集』を購入しました
これは短編集なのですが、際立って実験的なのが以下の三つの短編です
①肉欲と涅槃
②情夫
③ラート・エカテートの三つの世界
まずは①肉欲と涅槃から
ページを開いた瞬間、度肝を抜かれました。上下二段に分かれており同じページでありながら別の物語が展開されます。そして最後のページで美しく反転します
肉欲と涅槃。そのタイトルも意味深いものでした
次は②情夫です。この作品も視覚から驚きを要請してきます
何と単語の羅列なのです。とはいえそれが予想以上の効果をあげます。例えばこういう風に
オートギア/加速する車/深夜/静寂/道路/無人/照明
本を読んでいるのに、映画の映像を見ている気分になってくるから不思議です
最後は③ラート・エカテートの三つの世界です
これは本文に取り消し線が乱用されています
他にも葛飾北斎の絵も貼られていたりして何か暗示的に感じます
ですが、これは私には少し難解で、全てを理解するためには時間が必要だと感じました
これ以外の短編も実験がちらほらと見られます
ですが、よくある実験小説と違い、この作家は決して奇抜さだけで勝負していません
どの短編も途中でやめられないほど面白いのです
ある物語はどういう方法を用いたら最大化するか、著者は考え続けているに違いありません
ちなみに平野啓一郎が書いた『高瀬川 (講談社文庫)』にある氷塊という短編が、肉欲と涅槃の方法にあまりに酷似していて驚きました
残念ながらウィン・リョウワーリンの著作は日本語でたくさん読めません
ちなみに、私は探しまくって、『空却の大河』という書籍を手に入れました(残念ながら、こちらはアマゾンでも取り扱っておらず、、、)
これは書店の取り寄せもできないし、通常のオンライン書店の検索でもヒットしないように思います
ずいぶん前に、神田のアジア文庫にひっそりと置いてあったので買いました
本というのは、どこで買ったかまで記憶に残っている、愛しいものです
ちなみにウィン・リョウワーリンについては、下記の書籍を読んで、その存在を知りました。 東南アジア各地の文学が一冊で読めるので、ありがたいです