このブログでご紹介している書籍は、私が本当に面白いと思ったもののみ紹介させていただいております
ですので、あまり楽しめなかったものや、私の頭がついていけず理解できかったものは、ご紹介しないようにしています
(そもそも、本の感想というのは、ある種の興奮をもって誰かに言いたくなるものなので、あまり楽しめなければ熱量を失って、そのことについてあまり書けないという実情もあります)
そして、どうしようかな、紹介しようかしまいか、と迷う作品も数多く存在するのも事実です
今回の『おもかげ』は、どうしようか迷った著作です
率直に言って、楽しめる内容です
それなりの厚さにもかかわらず一気に読める娯楽性があり、最後はついつい涙してしまうような感動があります
特徴的な登場人物も出てきて、それぞれの視点から語られるので物語に広がりがあります
かつ、作者が戦後を知っている世代ということもあり、当時の様子がリアルに語られて郷愁が誘われます
ですので、シンプルに読み物としてのめり込むことができると思います
そして、アマゾンなどの書評でも肯定的な意見が多く、中には浅田次郎の最高傑作と呼ぶ人もいます
同じ毛色の作品として、『地下鉄に乗って 新装版 (講談社文庫)』という作品がありますので、そちらを気に入っている人は迷わず買うべきだと思います
にもかかわらず、なぜ私は紹介するかどうかを迷ったのか、と言いますと、、、
私が浅田次郎の著作をたくさん読みすぎたのかもしれません
彼の著作で最も好きなのは『蒼穹の昴 全4冊合本版 (講談社文庫)』で、次が『プリズンホテル 文庫版 全4巻セット (集英社文庫)』なのであります
だったら、それを紹介してと言われると思うのですが、この二つもずいぶん前に読んだので、ご紹介できるほど内容を覚えていないというのが本当のところです
これらも、いつかまた再読したいと思います
この『おもかげ』ですが、ちょうど定年の日の帰り道に地下鉄で倒れてしまい、その集中治療室に現れた家族や知り合いがやってくるという話です
これらの人とどういう付き合いをしてきたかという話なので、基本的にこの主人公の人生が振り返えられるという構造を持っています
主人公の性格はあまりに立派すぎて、本当にこんな人がいるのだろうかという疑念は読者の頭の片隅にはちらつくとは思います
彼は、不遇の状況にも関わらず謙虚で意思があり、妬まず他人を思いやることができます。家族を大切にして、親友を信頼し、誰も恨みません
そして彼は長身で外見も美男子ということです。。。
ちょっと出来すぎている感はあるものの、、、それを差し引いてもこの物語には何か強い磁力を持っています
おそらく大切であろうことがいくつもちりばめられています
それは、多くの人たちが忘れてしまった、もしくは忘れようとしているものかもしれません
ちなみに、かつて講談社から大衆文学館文庫というものがありました
そのテーマは”物語の復権”というものでした
いつのころからか、文学は前衛的で難解なものが増えてきました
シンプルに面白いものが排他されてきているようにも感じます
浅田次郎の著作には、いくつかの欠点があるのかもしれません
ですが、そこは素通りして、物語を楽しむという姿勢が、私たちの読書をより豊かなものにしてくれるようにも思います(ある種、自戒も込めて、です)
浅田次郎のような作家が、いつまでも物語を作ってくれていることがありがたいと思います