職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 -City of Darkness-』

 

 

九龍城という名前は聞いたことがあったのですが、それが何かは知りませんでした

 

ちなみに、九龍城とは香港の高層スラムのことだです

 

ある日、用もないのですが、とある本屋でうろうろしているときに見つけました


いつものように、本の背表紙を見ながら各書棚の間を通り抜けていると、突き当たりの書棚には廃墟特集という風変わりなコーナーがありました

 

私は特に廃墟に興味があるわけでもなかったのですが、一冊の本が強く目を引きました


平積みの一番目立つ場所に置いてあったのが『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 -City of Darkness-』でした


表紙も立てかけていて、ストックとして背表紙も並んでいるし、平積みにもされるという好待遇です

 

一冊だけビニールのかかっていないサンプル本があったのでぱらぱら眺めてみました


この手の写真集はほとんどめくったこともありませんでした


ですが、九龍城には私を引き寄せる即効性がありました

 

5階までだった建物などを無理やり手作りで上へと階を作っていくから、外観が不揃いで気味が悪いのです


同じ7階でも隣とでは高さが違っていたりするわけで・・・


この外観を見ただけで寒気がします

 

規律のなさは外観だけではありません


細い通路を無数の人間が歩き、それぞれの部屋の中では饅頭を作っていたり、麻雀をしていたり、雑貨が売っていたり、子供が宿題をしたりします


ある時期は完全な無法地帯だったらしく、その頃は殺人・売春・麻薬がまかり通っていたといいます


そんな中でも人々は力強く生きていました

 

この写真集の持ち味は写真だけではありません


各ページにそこで暮らす人々のインタビューがあります

 

これがまた興味深く、私の感情を刺激します


取材時期はちょうど九龍城が取り壊されることが決定した時に行われたもので、人々は九龍城を出た後の生活に頭を悩ましています


にもかかわらず、どこか陽気なところが滲んでいます

 

そして1993年、九龍城は取り壊されました


彼らの保証金は微々たるものだったとのことです


その後は殺風景な公園が作られました


つまり、『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 -City of Darkness-』の風景はもうこの世には存在しません


最初この本を手に取った時は、こんな場所があることが信じられませんでしたが、写真を眺めているうちに、すでにこの世にないことが不思議に思えてくるのです

 

こんなに力強く存在する建物が、すでにないなんて・・・

 

私が九龍城を知ったのは遅すぎました。もう誰も行くことはできません

 

 

九龍城探訪

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