職業作家への道

自分の文章で生活できるなんて素敵。普通の会社員が全力で小説家を目指します

『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ(前編)

 

 

先日、新潮クレストブックに似ているということで、ハヤカワepi文庫を紹介させていただきました

 

これらの共通点は、同時代に活躍している世界の有望な作家を紹介するというものです

 

新潮クレストブックよりも冊数は少ないものの、ハヤカワepi文庫も非常にクオリティが高いです

 

ちなみに、ハヤカワepiブックプラネットは、2007年2月が創刊で、初回に2点が同時発売されました

 

・『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ
・『カブールの燕たち』ヤスミナ・カドラ

 

前者はタイ人の作家で、後者はアラブ系の作家です

 

マイナー地域文学好きの私からすれば、最高の企画です(ヤスミナ・カドラ今では絶版になっているものも多いのですが、、、)

 

今回ご紹介したいのは、『観光』です

 

ラッタウット・ラープチャルーンサップは1979年生まれ。シカゴ生まれてバンコク育ち。タイ系アメリカ人です

 

これは短編集なのですが、驚くほど完成度が高いと私は感じました

 

なかなかこれくらい品質の高い短編集を出すことができる作家は、世界を探しても難しいかもしれません

 

短編集ということで、一つずつご紹介させていただきます

 

「ガイジン」

 

父はアメリカ人で母はタイ人の青年が主人公です

 

とはいっても、父の記憶はほとんどありません

 

タイに来る外国人の女の子についついちょっかいを出してしまいます

 

青年の生活に特に困ったことはありません

 

では、何がこの短編で描かれているかといえば、外国人に対して軽蔑と羨望を持つタイ人と、タイ人に対して憧れと侮蔑を持つ外国人です

 

おそらくこの短編の成功は、主人公をハーフにしたことかもしれません。そこで初めて意味を持つように思いました

 

どちらの立場にも立つことの出来る主人公を設定したことで、どちらも簡単に非難できなくなるわけです

 

とはいえ、主人公が外国人へ言ったことを考えれば、やはり著者にもある種の意見があったのかもしれません


「カフェ・ラブリーで」

 

おそらく少年から青年へ成長する過程において、こういう高揚感とか緊張とか好奇心を体験しなかった男性は皆無なのではないでしょうか

 

この舞台がタイといえど、この気持ちが分からないはずがありません

 

父を失った主人公は兄と一緒に一張羅で都会へ出かけたり、バイクに乗ったりあやしい店にいったりします


タイの兄弟間の絆についてあまり知らない日本の読者はその距離感に少し戸惑うかもしれませんが、なるほど、そういう国もあるのかと思いながら読めば楽しいものです


最後の少年の気持ち。勢いがあってリズミカルですごくいいと思いました


この短編は最後のこの一文のために注がれていっています


そして、旅行したことがある人は、そういうタイの夜の匂いを思い出すかもしれません。

 

「徴兵の日」

 

徴兵というのは日本以外の国ではもっと自然に受け入れられているのだと思います


ですので、徴兵のある国とない国ではこの短編の重みも変わってくるかもしれません


ストーリーは全く複雑ではありません


主人公は親友と徴兵の抽選に行きます


主人公の父親は力があるため、その抽選で徴兵にはならないように手配することができます


ですが、そのことを親友には言えませんでした


親友は母親に見送られて出かけます。親友の兄もかつて徴兵されることになり、ぼろぼろになって帰ってきています


二人は抽選会場へ赴きます。黒が出れば徴兵。赤が出れば免除


主人公は抽選の前に別枠で呼び出しをされます


親友はそれを見て主人公が何らかの権力で免れたということに気付きます


そして、親友が引いた色は・・・

 

ここからの続きは本文でお読みください

 

ちょっと長くなりましたので、次回に分けたいと思います

 

 

観光 (ハヤカワepi文庫)
 

 

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