小説というのは多様なので、国別に語るべきではないとは分かっているのですが、私の場合比較的イタリア文学が好きだと言えるような気がします
あまり知名度はなさそうですが、『靴ひも』を読みました。ドメニコ・スタルノーネという著者も初めて知りました
いつものように、何の目的もなく本屋さんをぶらぶらしていると帯の背表紙にジュンパ・ラヒリの名前があったので、手に取ってみたのがはじまりです
しかも、この本は新潮クレストブックではないですか!
世界各国の現代作家がタイムリーに紹介されるという画期的なシリーズです
ちなみに、その他の出版社にも同様の魅力的なシリーズがあります
白水社のエクス・リブリスと、早川のepi文庫です
(少し前は、epi文庫ではなく、epiブックプラネットという名前でした)
現代の世界文学を読みたい場合は、これらをチェックするといいかもしれません
マイナーな国の小説も取り扱っていて、時間があったら、いつまでも迷ってしまいます
さて、本日は表題にもある『靴ひも』ドメニコ・スタルノーネをご紹介させていただきます
ジュンパ・ラヒリはご存じの通りインド系アメリカ人の作家ですが、アメリカからイタリアに移住して、そこからイタリア語を習得してイタリア語で小説を書くという離れ業をしています
彼女の作品は全て読んでいるのですが、彼女の絶賛する小説、というのを知ったのは初めてのことでした
この『靴ひも』は三章の構造になっています
ほんの少しだけネタバレ気味になりますが、サスペンス的な犯人のようなものは伏せておきます
基本的には家族の小説ですが、多角的なので何となく自分の家族と照らし合わせる部分があるかもしれません
一章は、全て妻からの手紙で構成されています
二章は、夫の一人称で語られます
三章は、その夫婦の娘からの一人称で語られます
全ては夫の不義理からはじまり、家族の形はねじれていくます
夫は若い女性に突然惹かれて、家族を一時的に捨ててしまいます
ですが、社会的な成功をおさめるうちに、元の家族へ復帰しようと考えます
そして、なぜか妻もそれを受け入れてしまいます
一章と二章は夫と妻のそれぞれの立場からの気持ちが語られます
そして、最後の三章でそれまでのやりとりの真実が明かされるという構造です
非常に仕掛けが豊かで、このタイトルの靴ひもが多重的な意味を持っていたことが分かります
アマゾンなどの書評を見ていると、登場人物にイライラしたというコメントが多いです
もちろん、そういう側面はあるものの、私はそれぞれの登場人物に共感できる部分もありました
おそらく、この小説はかなり多くの問題をはらんでいて、それらをすみずみまですくいとるかのような、うまい構造になっていると思います
父の人、母の人、両親を持つ子供、全ての人が読んでも何かを考えざるをえない、いわゆる「読み終わった後に、世界を見ると景色が変わっている」という典型的な素晴らしい小説でした
ちなみにジュンパ・ラヒリは、この本を読んでから、あまりの素晴らしさに自分でイタリア語から英訳しています
家族というものに悶々としている人は一読の価値があると思います