全ての応募者は、必死の思いで仕上げた作品を祈るような気持ちで投函していると思います。
郵便局からの帰り道は少し安堵したような、なんだか小さく幸せを感じるような、そういう素敵な時間かもしれません
少なくとも私はいつもそうでした
そして日々は流れていきます。一ヶ月経ち、二ヶ月経つと、次第に記憶が薄れていき、ひどい場合は送ったことすら忘れてしまうこともあります
そして、半年くらい経ってから書店に立ち寄って応募した文芸誌を開きます。「あれ、そろそろ応募した作品の予選通過作発表じゃなかったっけな」と
それが当たっていることもあれば、まだあと一ヶ月先の号のこともあります
不思議なもので、過ぎてしまっていたということは、私に関してはこれまでありませんでした
私はその当時、社会人生活がはじまっていて、それなりに忙しい生活を送っていました
その日はあるスーパーで買い物をした途中で書店を見つけたので、そろそろ予選通過作が発表される時期かなと思って、書棚をのぞきにいきました
主要文芸誌というのは、毎月7日くらいに発売されるのですが、そのときはすでに下旬になっていました
もう少し遅れていれば、見過ごすところだったのです
あいかわらず、私の存在など皆無で応募すらしてなかったかのように、他の人の名前だけが羅列されているのだろうと思いながらページを開きました
今となっては思い出せないのですが、そのときは早く家に帰ってやらないといけないことがあったのです
右上からざっと名前を順番に確認していこうとしましたが、それは不要でした
最後の方に私の名前はあったのですが、ページを開いた瞬間に私の名前がばっと目に入ってきたのです
自分の興奮が抑えられませんでした
一度本を閉じて、別の冊子を取り出して同じページをもう一度開きました
当たり前ですが、同じ場所に私の名前があります
とてつもなく誇らしい気持ちでその本を持って迷わずレジに行きました
一次選考を通過しているのは、百名近い人々でした
まだそれだけ多くの人が残っているにもかかわらず、店の外はさっきとは別のような景色に、私には見えたのです